2012年8月28日火曜日

『インド進出企業の法的リスク』について報告書を書きました

現在、企業の海外進出が、円高や国内市場の頭打ちなど国内的な要因も相まって、加速しています。しかし、海外進出には、制度の違いや、言葉の壁、さらには遠隔地ゆえに紛争になったときのその対応の困難など、様々なリスクがあります。
弁護士会や、商工会議所でも、こうしたリスク、とくに法的リスクのゆえに、海外に進出した企業が不測の損害を被ることがないように法律相談を始めようとしています。また、企業がリスクの前に尻込みすることは、マクロ経済的にも、日本の経済にとって損失ですし、国も、中小企業基盤整備機構などを通じて、支援態勢を強化しています。
今回、こうした背景から、実際にインドに行って、法的リスクの実態調査をし,報告書としてまとめました。『インド進出企業の法的リスク』です。

在インドの、日系企業の担当者から、いろいろ興味深い話を聞き、それを、できるだけ、生の声を入れてまとめています。発表前に、被調査企業(14社)には草稿をお見せし、修正すべき点等お伺いしましたが、
「興味深く読ませて頂きました。業種は違っても色々と苦労(工夫?)してインド進出を成功させていることを感じました。」
「自他企業の生の声や先生の客観的なご意見は、大変興味深く参考になりました。」
「各企業の抱える問題が良く理解することができる貴重なレポートです。」
「他社の事例もあり、当社としても、インドを含め、今後海外進出する際の参考となりありがたく思っております。」
など、好意的な評価を頂きました。
 報告書ではインドに進出する際のポイントもリスト化しています。ぜひ,これからインド進出を計画している企業や,既に進出している企業のビジネス展開にお役立て下さい。
  私も、これを機に、企業の海外進出を支援する仕事に力を入れていきたいと思っています。

弁護士 棚瀬 孝雄


2012年8月27日月曜日

離婚訴訟にかかる時間

離婚事件は,「調停前置主義」といって,原則としていきなり訴訟をすることはできず,調停を申し立てる必要があります(家事事件手続法257条,家事審判法18条)。離婚訴訟の平均審理期間は「10.7か月」ですが,それ以前に調停をしているため,平均して1年以上かかることになります。
 「財産分与の申立て」をしている場合は,全体平均審理期間よりも長く「13.6か月」かかっています。使途不明金や隠し財産が争点になる場合には,審理期間が長くなる傾向があります。
 「親権者の指定をすべき子」のある/なしで平均審理期間に差異はないですが,実際に親権者指定について争う場合には,家庭裁判所調査官による調査が行われたりして,審理期間は長くなります。




弁護士 茨木

2012年8月24日金曜日

特別受益・寄与分

 前回ご説明したとおり,「特別受益」や「寄与分」が問題になると,遺産分割手続の審理期間がとても長くなります。

「特別受益」とは,共同相続人の中に,被相続人から遺贈を受け,又は婚姻,養子縁組もしくは生計の資本として贈与を受けた者がいる場合に,衡平の観点から,これを遺産分割の中で考慮するものです(民法903条1項)。
 たとえば,子どもが結婚するときに持参金や支度金を渡していたとき,子どもの留学費用を支払っていたとき等に問題となります。

 「寄与分」とは,共同相続人中に,被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときに,衡平の観点から,その寄与に相当する額を法定相続分に上乗せすることを認める制度です(民法904条の2)。
 たとえば,被相続人の事業を手伝っていたとき,被相続人の療養看護をしていたとき等に問題となります。
寄与分が認められるためには,①寄与行為が存在すること,②寄与行為が「特別の寄与」と評価できること,③被相続人の財産の維持又は増加があること,④寄与行為と被相続人の財産の維持又は増加との間に因果関係があると評価できることの4つをみたすことが必要です。

【具体例】
「特別受益」に該当するかどうかは,実際の裁判で,以下のように判断されます(平成17年10月27日東京高等裁判所決定,家庭裁判月報58巻5号94頁)。

「相手方(昭和36年×月××日生)は,昭和51年4月,○○高校に入学し,1年で中退後に都立△△高校に入学し,昭和55年3月同校を卒業し,大学受験に失敗し3年間浪人し,大学受験予備校である○△□に通った後,昭和58年4月,○○○○大学に入学し,留年したり卒業できなかったことから,在学生活が長引き,平成6年3月に卒業し(通常は6年間で卒業できるところ,5年間余計に在学期間を要した。),歯科医師国家試験に2年続けて不合格となり,国家試験予備校に通い(2年間余計に期間を要した。),平成8年4月に歯科医師の免許を取得したが,相続開始時までの間,無収入であり,被相続人から上記歯科医師になるため,抗告人に要したような通常要する費用以上の負担をしてもらった。また,被相続人は,代金を負担し昭和58年に乗用自動車(□□□□□),平成5年に乗用自動車(○○○○○)を購入し,もっぱら相手方に上記自動車を使用させていたものであり,いずれも生計の資本として付与されたものというべきであるから,以下の合計額3001万円(相続開始時における評価額)が特別受益と認めることができる。
(イ) その具体額は次のとおりと認められる。
大学受験予備校に通学した学費(3年分)192万円
大学受験料3年分 64万円
大学授業料
(平成元年度から平成5年度までの授業料) 850万円
大学5年間の生活費 月額12万円 720万円
国家試験受験予備校の費用
(授業料年額180万円の2年分。夏期講習20万円) 380万円
国家試験受験中(2年間)の生活費 月額12万円 288万円
自動車2台 402万円
維持費(自動車税等) 105万円
合計 3001万円」

「他方,抗告人は,相手方が要した高校留年期間1年間や予備校3年間の生活費を特別受益に当たると主張するが,高校を卒業するのに4年を要し歯科大学合格のために3年程度を要することは一般にありうることであり,被相続人が開業医であったことを考慮すると,その間の生活費の負担は扶養義務の範囲というべきであり,生計の資本としての贈与には該当しない。」


弁護士 茨木

2012年8月23日木曜日

争族・争続

 相続問題は,こじれると紛争が激化し,そのため「争族・争続」と表記されることがあります。

相続の話し合いがつかない場合,家庭裁判所の遺産分割手続を利用することができます。遺産分割手続を利用した場合,解決までに平均して1年かかります。













 ただし,12か月というのは,遺産分割事件全体の平均であり,「特別受益」や「寄与分」について争われた場合には,もっと時間がかかります。たとえば,寄与分の定めが認められている事案では,平均審理期間が「26.9か月」もあり,全体平均の倍以上時間がかかっています。それだけ,激しく争われるということです。
























弁護士 茨木

2012年8月22日水曜日

国際相続

日本に住んでいたアメリカ人が亡くなった場合,どの国の法律に従って遺産分割をすればよいのでしょうか?

日本に住んでいたアメリカ人が死亡した場合,「相続は,被相続人の本国法による」という法の適用に関する通則法36条によって,アメリカの法律(州法)に従うことになります。
ところが,アメリカは,不動産の相続と動産(その他の財産)の相続を区別して,不動産についてはその所在地法を適用し,動産については被相続人の住所地法(又は本国法)を適用するという「相続分割主義」というのを採用しています。したがって,日本で死亡したアメリカ人が日本に不動産を所有している場合,アメリカの法律によれば,不動産の所在地法である日本法を適用することになります。法の適用に関する通則法41条は「当事者の本国法によるべき場合において,その国の法に従えば日本法によるべきときは,日本法による」と規定しており,このことを国際私法の用語で「反致」といいます。
 ただし,英米法系の諸国においては,相続人への相続財産の移転に関して日本法の「包括承継主義」と異なり「管理清算主義」を採用しています。そのため,遺産の管理清算については,動産,不動産を問わず遺産管理地(所在地)法が適用され,残余財産の分配についてのみ相続分割主義により不動産の所在地法が適用されます。





相続人又は被相続人が日本に住んでいない場合,相続税の課税関係は変わってくるのでしょうか?

相続税の納税義務者は,相続又は遺贈により財産を取得した相続人等で,相続人等の居住地や国籍等により,①居住無制限納税義務者,②非居住無制限納税義務者,③制限納税義務者に区分されます。








では,海外に財産がある場合,相続税の対象になるのでしょうか?

納税義務者の区分によって結論が異なってきます。




弁護士 茨木

2012年8月21日火曜日

民法改正

現在,民法(債権法)改正の準備が進んでおり,法制審議会民法(債権関係)部会では,平成25年2月に中間試案の取りまとめを行う予定です。

改正の目的としては,①国民一般に分かりやすい民法にすること,②社会・経済の変化に対応することの2つが挙げられており,①の「分かりやすい民法」ということに関して,内田貴法務省参与は,以下の3つの意味があるとしています(NBL980号(2012.7.),NBL978号(2012.6.1))。
第1に,制定以来百年以上の間に蓄積された,条文にはない確立した判例ルールを明文化すること。
第2に,条文はあるけれども極めて不明確なものを,明確化すること。
第3に,現在の民法は高度な西洋法学の素養を前提として書かれていて,前提となる原則が書かれていなかったり,難解な概念が定義なしに使われているので,これらを補うこと。

「国民は民法など読まないから,分かりやすい民法に変える必要などない」という批判に対して,内田先生は次のデータを挙げて反論しています。
地方裁判所の民事通常事件の約4分の1が双方本人訴訟であること,訴額140万円以下の簡易裁判所の通常事件になるとその割合が約64%になり,60万円以下の少額訴訟になると89.3%にもなること。

内田先生は,欧米に比べて日本人の「法的リテラシー」は高く,法的トラブルに巻き込まれた日本人は,必死に自分で法律を調べて解決しようとしており,法律専門家が考えているよりはるかに多くの一般国民が,いざとなれば民法を読むと指摘しています。

弁護士 茨木

2012年8月17日金曜日

労働審判

解雇や賃金未払などの個別労働紛争を迅速・適正に解決するために,「労働審判法」という法律が,平成16年に制定されています。

労働審判は非訟事件の手続なので,非訟事件手続法の制定にともない,労働審判法も一部改正されています。改正労働審判法は,29条1項で,非訟事件手続法の規定を準用しています。

労働審判は,労働審判官(裁判官)1名及び労働審判員2名で組織する労働審判員会が,個別労働関係民事紛争を,原則3回以内の期日で審理・判断する非公開の手続きです。
原則として,申立てがされた日から40日以内の日に労働審判手続の第1回期日が指定され(労働審判規則13条),1回目の期日で勝負が決まると言われています。実際,第1回の期日で,審判官が,心証の開示(解雇は有効である等)をすることも多いです。相手方(通常は企業側)の代理人になる場合には,準備のための時間が限られているので,我々も企業の担当の方も,時間に追われることになります。

労働関係訴訟は,2119件(平成13年)から3135件(平成22年)に増加しています。さらに,新しく始まった労働審判事件も,1494件(平成19年)から3375件(平成22年)に増加しています。
労働紛争は,全体として増加しているといえます。

弁護士 茨木